暮らしのヒントがきっと見つかる、R-STOREが紹介するおしゃれな賃貸住宅ライフ、インタビューウェブマガジン

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Room No.0042014.04.03

フォトグラファーの部屋

小澤達也さん&岡田ナツ子さん

Tatsuya Ozawa & Natsuko Okada

千駄ヶ谷の静かな住宅街のなかに、通り過ぎた季節の数を感じさせる、味のあるマンションがあります。築46年のマンションの外観からは想像のつかない、今回のお部屋は二人のフォトグラファー夫婦が改装をして仕事場に使うスタジオです。スタジオとしての使い勝手だけでなく、ご夫婦で相談しながら作り上げていったお二人の人柄がにじみ出る数々のこだわりをうかがいました。(※文中は旦那さまの小澤さんを(小澤さん)、奥さまの岡田さんを(ナツ子さん)と表記しています。

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奥行き10m以上ある広い空間は片側は真っ白、もう片側は木の素材そのままの壁。

―扉を開けてびっくりしました、この大空間!いつからスタジオを使っていらっしゃるのですか?

(小澤さん)このマンションはゆくゆく取り壊す予定でしたが、建物のオーナーが変わって、補修して残していける限り残そうと、“賃貸”にして募集を開始したタイミングで出会いました。住居にするのか事務所貸しにするのか決めかねていたようですが、お客さんに会ってから決めようと思っていたようです。たぶん、内装工事もここまでやるとは思っていなかったと思いますけどね(笑)。今年の1月の中旬に引っ越してきました。それまで私たちは、写真の仕事をする際に自分たちのスタジオを持っていませんでしたのでハウススタジオなどを借りて撮影を行っていました。ですから、ずっと探した末にやっと見つけた部屋でした。

ーずいぶん広いですが、ここはひとつの部屋だったんですか?

(小澤さん)恐らく……、実はあまり全容がわからないのです。私たちが見た時は既にこの広さでガランとしていました。しかし一目みて気に入ったので、内装工事をさせてもらうという条件で契約をしました。

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オープンキッチンはぬくもりのある素材を使って。最後までコンパクトキッチンにするか悩んだそう。

 ーまず、目に飛び込んでくるのが素敵なキッチンですね。

(ナツ子さん)スタジオなのに、キッチン!?という感じですよね。撮影ももちろんですが、お茶をしたり人が集う場所をイメージして内装を作り話し合う中で、このキッチンが出来上がりました。

ー内装はどんなこだわりを、どなたに伝えて作り上げていったのですか?

(小澤さん)まず、写真の仕事は広いスペースが必要なのでそれが第一のテーマでした。極力空間を作りたかったんです。それから、撮影の内容に応じて壁がかけ替えられるように、幾つか壁材のパターンを持ち、臨機応変に対応できるような作りにしてくださいとお願いしました。設計は妻の高校の同級生でコンストラクターの河合宏幸氏「HAND creative factory」)にお願いしました。彼は家具の工房などで働いていた経験から木の素材を活かしたデザインが得意な人でした。いつもハウススタジオなどを借りる時に気がつく「もう少しこの部分、高さがあったらいいのに」とか「動かせればもっと良かったのに」などのちょっとした要望みたいないものを、できる限りこの小さい部屋に詰めこめればいいなと思って作りました。

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室内は木の素材、モルタル、鉄、ガラス、白壁、と潔い。それも写真の被写体を思ってのこと。

―具体的にはどんな部分がありますか?

(ナツ子さん)撮影をしていると「いま白壁があったら良かったのに茶色しかなかった!」なんていうことがあるんですね。選べる幅の広さというか、選択肢はたくさんあったほうがいい。だから壁の材質はさまざまなものを採用して、取り替えられるようにいくつかストックも持っています。そういう意味では幅をとってしまう、キッチンを作るかどうかはギリギリまで悩んでいたんです。彼は無し派で、私は欲しかった(笑)。絶対にキッチンがあったらいろいろな事が広がっていく、と思っていました。

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壁や床の素材を差し替えられるようにたくさんストックされている。

 ―実際はキッチンを作って良かったですか?

(小澤さん)良かったですね(笑)。

(ナツ子さん)さらに、キッチンに関しては皆それぞれにこだわりがあって、キッチンの位置や、材質について3人で意見が別れました。河合さんは天板を大きめに使いたい、広くしたい、オープンキッチンにしたい、など。でも私たちは極力場所を広く設けるためにコンパクトなキッチンを想像していました。話し合いの末、いまの形に落ち着いたんですが結果的にはキッチンがこのスタジオの顔になっている部分が大きいので、良かったなと思っています。

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キッチンで過ごすお二人は自然な笑顔。やはり火元、水回りには人が集うのでしょう。

 ―ふだんどんな撮影を手がけられているのですか?

(小澤さん)私は主にファッション撮影ですね、それに付随する商品撮影やモデル撮影なども行います。ですから撮影には白い壁、引きで撮ることのできる被写体との距離などが必要になります。

(ナツ子さん)私はカルチャー周り、というのでしょうか。もともと着物撮影がスタートでした。二人で所属していた出版社があって、長年「社カメ(会社所属のカメラマンという意)」として仕事をしていました。それぞれ独立した後、昨年一つのスタジオとして二人一緒にここを開いたんです。現在はさまざまなクライアントさんとお仕事しています。先日は子どもの撮影があって、この空間にキャンプ用のレジャーシート、テントを置いて大騒ぎで撮影しました。

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機材はストックスペースにまとめて収納されている。

 ―R−STOREに出会ったきっかけは?

(小澤さん)検索していたら見つけました。お店を持っていない不動産屋さんですので現地集合は、始めは不安でしたが、良い物件に出会えました。検索する際は、スタジオタイプ・天井高い・改装可能、などで探していました。壊して内装が変更できるものが良かったのですが、一般の不動産サイトにはなかなか出てこない(笑)。天井はもともと低かったのですが、壊してみないとわからない、という状況で内見以降は想像力との勝負でした。

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当初むき出しだったガス管や水道管などは取り替えた後、補強を施してインテリアの一部としても。

 ―作り上げていくことに不安はありませんでしたか?

(ナツ子さん)もともとそういう経験があったわけではありませんが、物事に対して「変化していく楽しさ」って大事だなと思っています。自宅もそういう風に暮らしているんですよ、大家さんがなんでも直して使う方で、交換してくださいって言っても直しちゃう。実際にこうして空間に手を入れると生き返って心地よい場所になる。

(小澤さん)仕事やプライベートでヨーロッパやNYにいくことが多いのですが、そこで見たものを取り入れたいなと参考にすることもあります。日本も壊して作るではなくて、直して使い続ける文化になっていけばいいのにな、と思いますね。

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個人的な荷物は極力持ち込まない。とはいえ、子どもたちの心をつかむきっかけは随所に。

 ―千駄ヶ谷という立地の決め手はなんでしたか?

(小澤さん)以前勤務していた出版社が市ヶ谷だったので、沿線ということもあったし原宿や渋谷から近いせいか、ファッション関係の事務所やプレスルームも多いんです。人が集まってきやすい場所、ということで選びました。すこし繁華街からは離れていて、街にはちょっとゆったりする空気感がありますね。

 ―窓ひとつひとつに異なる形の枠がついているようですが?

(ナツ子さん)もともと窓の大きさが異なるサイズだったんです。河合さんはサイズを合わせるように提案してくれたんだけれど、予算的にも難しい部分があり、どうしようかと悩んでこのアイディアが出ました。それぞれを、オリジナリティある窓枠にしてしまおうというものです。額縁のようなものもあれば、タイルで縁取りしているものもあります。異なっている形のものをさらに際立たせることで「異なる」という共通点を持たせてあげることができました。

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光と風が抜ける窓。それぞれの大きさや形が異なることも、個性。

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窓がまるで大きな絵のように。

 ―持ち込まれた家具やインテリアは選ぶ基準などがありますか?

(ナツ子さん)持ち込まないというルール(笑)です。なるたけ物を持ち込みたくないと思っているのですが、やっぱり棚がない、椅子がない、とそのときどきのインテリアを集めて行ったらこれらが集まったんです。選んでいる視点は一応「無地」のものですかね、子ども撮影の際に子どもたちが入りたいと思えるようにちょっとした小物や絵本を集めて置いてあります。

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集まってきたもの、とおっしゃるけれど、お二人らしさが垣間見える。

 ―お二人はここでどれくらいの時間を過ごしますか?

(小澤さん)朝9時に来て、遅い時は日付が変わっても居ることがありますね。午後の14〜15時がいちばん光が入ってきもちいい時間です。キッチンがあるので簡単に食事を作って食べることも増えましたね。

 ―キッチンは活用なさっていますか?

(ナツ子さん)設備的にはグリルも充実していて使いやすいです。ゆくゆくは料理撮影ができたらいいですよね。サロンみたいに、誰かがきて話をする場だとか、撮影しながら食事を出すなど、人が集まる場所になればいいなと思っています。実際にいまも、撮影が終わったあと、コーヒーやお酒を飲んでちょっとゆっくりされていく人もいらっしゃいます。

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右手に見える鉄版は、コンテや進行表を貼って撮影の全体を示すボードに。

 ―部屋を作り上げて行くプロセスをうかがっていると楽しそうですね。

(ナツ子さん)お互いにカメラマンですので、どういう空間にしたいという点では一致することが多かったのですが、やはり男性と女性が求めるポイントは異なりました。私にとっては「水回り」がとても大切でした。キッチンもそうですが、トイレや手洗いを充実させたかった。長時間居る場所ですし、働く人も、招かれる人にとっても心地よい空間って、水回りが充実しているかどうかにかかっているなと感じます。

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トイレにはたくさん木が使われていました。

 ―買い物はいつもお二人でなさいますか?

(ナツ子)私が提案することが多いですが、彼と一緒に買い物にいきますね。必要なものは彼が作ってくれることもあります。相談しながら進めていく感じです。大変だったけれど想像が形になって、いまやっとすこし落ち着いたかな。

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今日のお客さま。私たちを歓迎してくれていることが、玄関の扉を開ける前に感じられて。

 良いものを見抜く目、というのはつまり「目に見えないものをいかに想像できるか」という能力なのだと感じることがあります。最初に物件に出会った時から、お二人がたくさんのアイディアを出し合いながら、当初想像していた空間に近づけていく姿が目に浮かびました。仕事場でもご自宅でも一緒に過ごすお二人は、お互いの好みや心地良いポイントを既に共有なさっていてるため、会話のテンポと阿吽の呼吸が心地良く、ひとつの世界観につながっているんだなと思いました。ちなみにさすがカメラマンのお二人、どんな風に撮られているのか、を想像なさってくださるため撮影が本当にスムーズでした。(文:stillwater 玉置純子/写真:松園多聞)

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