Room No.0082014.08.12
ストーリーのある部屋
速水真理さん
Mari Hayami
碑文谷の緑あふれる公園の横にたたずむマンションは、築年数44年というなかなかの年季の入った建物。風情のある階段をあがっていくと、速水さんが住む、部屋があります。眼下に緑の公園を見下ろすロケーションと、好きな物を少しずつ集めて整えて行った空間は、静かな都会の隠れ部屋。インテリアには人の生き方が現れるようで、眺めているとその変遷が見えてきます。速水さんの愛するものを、教えてもらいました。
―なぜ、この部屋に住む事になったのですか?
祐天寺で4年暮らした部屋の更新が迫ってきたので部屋を探しはじめました。さまざまな不動産サイトをみましたが、R-STOREでこの物件に出合いました。予算内で30平米の広さを保てる部屋。質感のあるフローリングの部屋を、という条件です。私の職場「CLASKA 」までは徒歩で歩ける立地ということもあり、ここに決めました。築年44年ですが、古い建物は好きなので古さは気にならず、むしろ前回住んでいた木造のアパートより安定感があるかな(笑)と思っています。
―気に入ったのはどんな部分ですか?
内見に来た時に、R-STOREの米満さんが間取り上は手前がリビング・ダイニングだけれど、光の入る奥の部屋をリビングとダイニングに使われたらどうですか?と提案してくださったんです。「なるほど」と合点が行きました。一番長く過ごす場所は、光が入り、ゆっくり風景を楽しめる空間であって欲しいと感じていたので決めました。そのアイディアいただき!と。それで、手前のキッチンがある部屋を寝室に使っています。
緑があり、空が見え、静かなこと。この最後の「静か」は、この部屋から見える公園に集まる子どもたちの声に彩られて賑やかなものになっていますが、子どもたちの声は心地よくて、気になりません。むしろ安心するというか、落ち着く場所の要素になっているなと思います。若い頃は、都心へのアクセスが一番大切だったけど、環境が良いところで、ゆっくりとできる場所がいいと思うようになりましたね。部屋の中にも、もう少し緑を増やして行きたいなと考えています。
―この新しい部屋に来るために家具を揃えるなど、何か準備をしましたか?
ガラスのショーケースはこの部屋のために買い足したものです。碑文谷のインテリアショップ「KOUSEI WERKSTATT」さんでカスタムオーダーしました。ここは「CLASKA Gallery & Shop “DO”」のショップ什器なども作ってくださっている繊細で美しい家具を扱うお店で、憧れの場所でした。この機会に絶対にオーダーしてみたいと、決心し、食器棚を購入したいと相談したのです。アンティークのショーケースを部分的にカスタマイズしてくれました。上から手前へ引く一枚扉を観音開きへ。底面には杉板を張り、ガラスの棚板を2段から3段に増やしてもらいました。
前の家の最大のお気に入りポイントが、ガラスの作り付けの棚があるところだったんです。それがあることで、台所が凄く充実していて。食器を並べるのが楽しい、埃はたまらない、何よりも食器の準備や片付けが楽しくなる。ですから新しい家では食器棚だけは買おうと決めていました。古いガラスは光が当たるとゆらめき、華奢な黒い木枠は空間のなかで程よく存在感を放ち、全体を引き締めてくれています。
―ドライフラワーのモビールはご自分で作ったんですか?
自分で作りました。なんとなく空間を仕切る役割にもなっています。
―植物がさりげなくお部屋いろんな場所にありますね。
たまたま駒沢通りを歩いていた時に知り合いがいるギャラリー「HAPPA」の前を通りがかったら呼び込まれて、そのとき展示会をしていたのがこの花器の作家10¹² TERRA(テラ)さんたちでした。作品に一目惚れして。さらにそこに飾っているドライの葉はこれまた知り合いのショップで吉祥寺の「OUTBOUND」を訪れたときにお店の隅に置いてあった何とも言えないこの植物を、売り物ではなかったのですが、店主に頼み込んで譲ってもらったんです。ちゃんと買い物もしましたよ(笑)。
―日常生活の中のこの空気感を、どうやって学び、作れるようになったのですか?また、ものは部屋の中に増えていきますか?
あまり増えないです。引っ越しで今回は多少ものを捨てましたが、基本的には長く使うほうです。気に入るものや、いいなと思うものは年齢や生き方とともに変化し増えていく一方で、そう思えなくなるものも当然出てきますよね。自分自身が変化して、新陳代謝しているんだと感じます。
―これは一生きっと使うな、と思って買うものの“基準”や“ものさし”はありますか?
シンプルなものですね。若い時は、モードでインパクトのあるものも衝動的に買っていたんですが、仕事柄、良いものを良く知っている人に出会える機会が増えて、自然に自分の中にも選び取る力が育ってきたのかもしれません。良いと思うものが変わってきました。本当に嬉しく、ありがたいことです。しょっちょう使うお皿とか、使い勝手の良い道具とか、だんだんと自分が何が好きか見えてきた感じですね。
―「すきなもの」の共通点を言葉で表すとなんでしょうか?
自然な素材、日本のもの…が多いかな。私が働くCLASKAのギャラリーとショップで扱っているものは、もちろん洋のものもありますが日本のものづくりが持つ魅力に軸足があって日本人のデザイナーさん、作家さんとの出会いも多いんです。恐らくその影響はとても大きいと思います。
―ライフスタイルやインテリアにとって、日常的に速水さんが心がけている情報収集やインプット方法はありますか?
スタイルを学ぶという目的でインテリア雑誌を眺めるということは少なくなりましたね。特集によって手に取りますし、掲載された際にはもちろん読みますが、どちらかというと毎日の中で出会う人と自分の関係性のなかに「もの」がある感じです。そこに介在するコミュニケーションが大事というか、作家さんや店主や紹介してくれた人、教えてくれた人を通してかかわり合いが生まれることで、一段とものに対する興味が生まれ、愛情に変わり、それが自分のものになったときに愛情が深くなっていくんだと思います。ここ最近は、そういう間柄のなかで出会うものを自分の部屋に持ち込んで、共に過ごしたいなと思っています。
長年インテリアの業界で仕事をしている速水さんは、数々のデザイナーさんや作家さんとかかわり合いながら、たくさんの「良いもの」に囲まれて日々を送っていらっしゃいます。だからこそ、自分の部屋に持ち帰りたいほどの「もの」には、自分との「ストーリー」が大切なのかもしれません。空間の心地よさもまた然り。速水さんの部屋は、テーブルや什器が呼吸をしていて「いらっしゃい」と迎えてくれる、そんなお部屋でした。(文:stillwater 玉置純子/写真:松園多聞)