Room No.102014.10.10
和室と洋家具、畳に住まう一軒家
新實寛之さん亨さん
Mr.Hiroyuki Niinomi&Ms.Akira Niinomi
品川区・西大井駅または中延駅から徒歩で数分。下町情緒の残る町並みに、遠くから秋祭りのお囃子が聞こえてくる週末の午後。今回はR-STOREのスタッフ、新實さんのお宅を訪ねました。R-STOREのスタッフのお宅!とあって私たち編集部もはやる気持ちを抑えつつお邪魔しました。空間も、インテリアも、上級者のお住まい!なのに肩に力が入り過ぎていない絶妙なバランス感覚、この秘密はどこにあるのか?お話をうかがいました。
―いつからこのお部屋に住む事になったのですか?
去年の11月に引っ越してきました。7月くらいから本気で探し始めました。もともと住んでいた家は大田区にあり、そこも気に入っていたのですが、結婚して1年半くらいたって、犬が飼いたいなと考え探し始めました。数ヶ月探した頃にこの物件に出会いました。僕が提示する条件が厳しいのでなかなか見つからなかったんです。
―条件とおっしゃいますと?
昔からビンテージの建物が好きで、好きな部屋を見つけると引っ越ししながら住んで来ました。広さは40平米以上、価格は11万円以下、ペット可、23区、という条件です。最終的にはなかなか物件が見つからないから許容範囲を八王子など23区内から東京都内に範囲を広げて探していました。
―この条件を持ってさまざまな不動産屋さんで探されたのですか?
はい、探していました。けれどなかなか見つからない中、転職してR−STOREに勤めはじめてすぐに出てきた物件がこの物件でした。見てすぐに気に入りましたね。もちろん一般公開の物件としてウェブサイトに掲載しました。公平にお客様にも見て頂きましたが、私たちが即決したので、入居することになったのです。
―この条件はなかなかハードルが高いと思いますが、一戸建てにこだわりなどはありましたか?
以前住んでいた家は築40年くらいの、リノベーションをした一戸建ての家でした。一戸建てに対するこだわりがあるわけではないのですが、もともとマンションがあんまり好きじゃないんです。大型のマンションは特に好きじゃないですね。新しさというより画一化されたものが苦手なのです。それから奥さんはエレベーターが嫌いなんです。彼女はマンションには一度も暮らした事がありません。この家は、大家さんが隣に住んでいることもあって周辺の情報も教えてくれるし、安心感があるのはいいところだと思っています。
―この秋を過ごせば、丸1年経ちすべての季節を経験されたことになりますね。冬はいかがでしたか?
凄く寒かったですよ、木造の一戸建てですからね。まさに越冬ですね。今年はガスストーブを導入して、電気カーペットを敷く予定です。
―ペット可の賃貸物件が少ないということですよね。
本当に少ないです。特に私たちが扱っているようなデザイナーズ物件は、部屋にそれだけの想いが詰まっている物が多く、当然オーナーさんも損耗や清潔さを気にされます。けれど、動物好きな人も増えていますから難しいところです。こんな風に自分たちで改装して良いと言ってくれる物件に巡りあえることはとても運がいいと思います。
―最初から改装をすることを前提に借りたのですか?
はい、そうです。オーナーさんに提案しました。まず、この部屋は和室です。そして照明は蛍光灯でした。襖がありましたが取り外して階上に収納してあります。それから壁はすべて僕たちで塗装しました。リビングはグレーとサンドベージュ、薄いパープルの3色で塗り分けています。庭に面した窓は二重扉に改装し、お風呂とリビングを区切るところにブラインドをつけて扉代わりにしました。特に脱衣所は既存の洗面台などを付け替えて、壁はピンクに塗りました。よく見ると、花柄のエンボスがある壁紙が貼ってあるのがわかると思います。
―内装に手を入れはじめてから、この状態になるまでどのくらいの時間がかかったのですか?
ちょっとずつ時間をかけてやっているので、長いことかかっていますね。たとえばダイニングの照明も大正時代のアンティークのものでパーツを揃えなくては設置できません。パーツが見つかったらそれを接続する部品をまた探すなど、ゴールを定めて作るというより、ひとつずつ丁寧に進めています。
―キッチンはどんな風に作り込んで行かれたのですか?
ほとんど何もしていないのですが、戸棚だけ塗りました。白いタイルを一面に貼りたいなと思っているんですが、現在計画中です(笑)。キッチンのキリムは国内で購入しました。キリムについてはリビングのものはNYから持って帰ってきました。重さの制限でどうなることかとハラハラしながら持ち帰ったのですが無事に(笑)。キリムは和室のなかの全体のバランスを調整する大切な役割を担ってくれています。
―インテリア、空間の使い方についてどんな工夫をしているか教えてください。
以前住んでいた家は38平米の広さだったので、いわゆるリビングスペースを作ることができなかったのですが、新たにリビングスペースを作ることができたので、ソファやローテーブルなどを追加で購入しました。このブルーのソファは新しいもので、奥さんの職場のインテリアショップで選びました。張り地は100種類以上の生地の中から選びました。インテリアについては、どこで買うという決まりなどは特になく、ヤフオクでアンティークのものを購入することもあります。吟味するというより直感とか納得感で決めますね。例えばダイニングテーブルもヤフオクです。新品でいい物だときれいに作られ過ぎていて重たさがないので、古いものを選びました。
―家具を選ばれる時の基準はありますか?空間が先なのでしょうか?家具でしょうか?
僕らは、もともとインテリア業界で仕事をしていたので、家具やインテリアについては、さまざまな事を考えていろんなことを判断しているはずなんですが、悩むことはいないんです。空間がこうだから、この家具を探そう、この家具が欲しいから空間を改装しよう、などという事はしません。夫婦でお互い話し合うのもほんの一瞬なんです。不思議と、吟味して、議論して選びに選ぶというより、当たり前にこの家具が良いと感じて、当たり前のようにお互いで確認をして購入する。それは流れるように決めることが多いんです。
―お二人にとって「心地良い感じ」はどういうキーワードで現されるものですか?
素材感、かな…。ジャンルは決まってなくて選ぶものはさまざまな国籍のものです。物を引いて考えるタイプではないので、集まってきた物をどんどん足していく中で心地よいバランスを探していきます。
―長く付き合いたい物を選ぶのでしょうか?
そんなに難しく考えないです。殆どありかなしかの世界です。いい物でも値段が高ければ買わない。ダイニングにあるチューリップチェアも1万円ちょっとで購入しました。新品で買ったらおそらく10倍以上の値段がすると思います。
―インテリアのショップは日常的に周りますか?
全く行かないですね。コレというものを探している時にお店に行って、良かったら買うこともありますし何も用事がなくてもふらりと立ち寄ることもあります。旅行も頻繁に行くわけではないですし、どちらかといったらインドア派なんです(笑)アクティブに動き回ることもありませんね。部屋でお互いがそれぞれに、思い思いに過ごすことが一番多いですね。
―インテリアはいつどこで学ばれたのでしょうか?
僕は19歳くらいからインテリアが好きで独自に勉強をしていました。椅子も空間も、その当時はインテリアショップを良く歩きました。本当に勉強をした時期ですね。その時にひと通り通過したのかもしれません。イームズのデザインしたラシェーズという椅子も、昔は欲しくてしょうがなかったけれど今それがどうしても手に入れたいとは思わないんですよね。「物」から、「全体の心地良さ」に移行しているのかもしれないですね。それは僕だけでなくて世の中の気分全体にも言えることかもしれません。デザインがいかにいいか、ではなくて「どう住むか」というスタイルが大切なんです。ソファのシートハイひとつにしても、高かったり、低かったり。寝るのか、座るのか、そこに居て何をしたいのか?それによって選ぶものは変わるんです。その上で、形がいいとか素材感が好きとか、ディテール決まっていきます。用途がわかっている僕らは、だからきっと、あまり悩まないで物を選んでいるんだと思います。
―お持ちのインテリアと和室を調和させることが可能になるポイントは何でしょうか?
最大限に和室を活かす方法、それはずばり和室を受け入れること(!)ですね(笑)。テクニックとしては、多国籍の雰囲気を持っている絨毯の存在も大きいいと思います。さらに洋の家具と合わせていくと、不思議と障子の存在がモダンに見えてくるのです。それからとても大切なのは、電気が白熱灯であること。それも程よい照明の量であることが重要です。
―ご結婚なさってから住まい方は変わりましたか?
良い意味で、よりジャンクになりました。勤めていた先で扱っている素敵だなと思ったものを買う。ヤフオクでもアンティークのものを買う。良い価格であれば丈夫で使いやすいミッドセンチュリーの家具も買う。デザイナー家具だから欲しいとかそういうことではない領域ですね.全体感をいかにバランスよく保てるのか、いまの興味はそこに在るんです。
―新實さんにとって家はどういう存在ですか?
たぶん、基本的には完成がないと思っています。住みやすいからずっとこのままで良いという事はなくて、常に変化していくものだと思っています。その時代、テンションやセンスとシンクロして変化していき、コンディションに合わせて変わるものだと思います。自分たちでどこまでできるのか、ということに挑戦したいんです。日本の住宅の要素、たとえばクッションフロアでも和室でも絨毯でも、そこにあるものとどういう風に対峙していけるのか、それが知りたいんです。できるかできないか、実現のために大切なのは「センス」や「工夫」だと思います。そうそうぴったりと来る家具があるわけではないので、この日本で今「インテリア」に対してセンスを磨いて行くのは難しい事なんだと実感しています。教えてくれる場所や、アドバイザーがいるわけでもないですしね。僕がR-STOREにいる意味はその辺りにあると思いますが、お客さまを皆先導していくのは難しいことです。
今回僕らの家を見て頂いて分かる通り、和室に洋家具を置く事、これはひとつのチャレンジなんです。畳の上に直接座ろうとすると、ダイニングテーブルとの高低差ができてしまう。これをリビング空間でどうバランス取っていくのか、そうやって試行錯誤していくこと自体が「住まう」ことを考えることです。僕はそもそもインテリアはプロにお願いするべきことだと思っています。けれど、自ら挑戦することもやめられない。たぶん、ずっとその繰り返しなんだろうなと思っています。
今回、新實さんとお会いして、これほど真剣に空間とインテリアのバランスを考えていらっしゃるのに、これほど肩に力が入っていないように見えるのは何故だろう?と不思議に思いました。お話するにつれて段々と解ってきました。既に知識や体験を通してとしてデザインやインテリアを良く理解しているお二人は、今の気分、肌感覚などにとても正直にごく身体的に、そしてより精神的に落ち着く空間を作り上げているのです。お二人の愛犬のアルプちゃんが伸び伸びと寛ぐ姿をみてしみじみと思いました。空間はどう作るか、ではなくて、どう住まうか?なんだなと。(文:stillwater 玉置純子/写真:松園多聞)