暮らしのヒントがきっと見つかる、R-STOREが紹介するおしゃれな賃貸住宅ライフ、インタビューウェブマガジン

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Room No.142015.02.10

「青」が基調になる手作りの部屋

田中修平さん&米倉夏さん

Mr.Shuhei Tanaka& Ms.Natsu Yonekura

五反田から池上線にのって、まもなく。雪が谷大塚は住宅街のなかにある賑やかな駅。商店街には活気が溢れていて、歩いているだけで楽しい気分になってくる。駅からほど近い、お二人の住まいは鮮やかなブルーが特徴の存在感あるタイルが目印のビルだ。建築家の田中さんとインテリアアドバイザーの米倉さんは、自分たちならではの空間を描き、それを実際に形にして暮らしています。特別に難しいことではないと語る二人に、そのヒントを伺いました。

 

※   今回は取材始まって以来の大人数!お二人のご友人の清水郷史さんも参加。そして今回から物件を担当しているR-STOREメンバーも取材に参加してくださることになりました。今回は、R-STORE歴は短いけれど、やる気満ち溢れ知識豊富な岸田光さんと共にお邪魔します。

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光が沢山入る気持ちの良い窓。日差しが当たって青い壁が輝く。

 _素敵なお部屋ですね。初めからイメージをされてこの部屋を借りたのですか?

 (田中さん)長方形の間取りが気に入ったのと、広い壁があったので、ここに何かできればいいなと考えていました。そもそも改修はOKの物件ではなかったので、あくまで妄想でしたが(笑)。その後調べたところ、東京都の賃貸契約の条例で、原状回復費用の借主の負担割合は、経過年数を考慮して定められており、壁のクロスは6年で価値がなくなると分かりました。僕らの部屋は貼り替えてから既に5年経っているので、退去時は貸主負担で壁のクロスを貼り替えるという事がわかり、オーナーと交渉して壁を塗る許可をもらいました。

 (岸田さん)決まる時点では改修のお話はでてなかったんですよね。なので正直そのようなご相談を後日いただいて、驚きました。私たちは常々、入居者さん自身で暮らしをつくるということのお手伝いをしたい、と考えているので。まさに、そういう方が現れた!と思い、社内で話を通しました。

 (田中さん)全てできなくても、やれる範囲で心地よい部屋づくりはしたいと思っていました。賃貸の原状復帰という規制がある中で、どうすればより良く出来るかと考えるんです。そうすると、実は色々出来る事があるんです。照明を付け替えたり、壁に植物を飾ったり、コンセント・スイッチプレートまで交換しました。

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塗装は自分たちで。養生をしっかりすることで、塗りぶれがなく、ラインが美しく出る。

 _鮮やかでもあり淡くもあり、絶妙なこのブルーがとても素敵でアクセントになっていますね。

(米倉さん)馬喰町にショールームのあるカラーワークス社の「Hip」という塗料を使いました。

 _元々一緒に住んでいらっしゃったのですか?

(田中)一緒に住もうと決めて、それをきっかけに物件を探し始めました。

 _どんな条件で探したのですか?

(田中さん)最初にお互い、10個くらい条件を出し合ったんです。僕はオフィスまで自転車で通えて、雨の日の電車通勤もそう遠くないこと。賃料は9万以内におさまり、30平米以上あること。実際に見に来て、駅が近く、治安が良さそうな商店街も気に入りました。

(米倉さん)私が挙げたのはトイレとお風呂が別であること、30平米以上、駅に近いこと、でしたね。

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テーブルの上の緑、お気に入りの食器。暮らしが少しずつ丁寧になっていくのが楽しい。

 _お二人の選ぶセンスや、感覚の共有はどのように行ったのですか?

(田中さん)一般的な不動産サイトを調べているうちに、街の雰囲気や治安とか、少しずつ見えてくるものがあったのですが、実際のところ家に関しては賃料で決めていた部分は大きくて、2人で9万以下となると築年数が古いものばかりだったんです。でも、その古いものでも味や風情を良いと思う感覚はお互いが共通していたんです。あとは、雑誌や写真などを参考にしながら、イメージをすりあわせていきました。

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お互いの家から好きなものを持ち込むのに、センスはいつの間にか統一されているから不思議だ。

 (岸田さん)もともと雪谷大塚の物件を見に来たついでに、周りを5時間くらい周っていた際に、外観に惚れてしまったのがこの物件でした。外壁に使われている青いタイルが可愛いなと思って。扉もラインも青い、ビルの名前も青木ビル…(笑)。一番最初に取材して掲出した物件になりますので、私にとっても、とても思い入れがある物件です。うまく言葉で表しにくいのですが、よく私たちは良い意味で使う「なんかいい」という空気感をもった物件です。

_ほかにも物件は内覧されたのですか?

(田中さん)はい、5〜6件見ました。でも一番気に入ったのがこの物件でしたので、内見後はすぐに埋まっちゃうんじゃないのか、日当たり良いし、広いし、駅近いのに何でこんなに安のか、なにか落とし穴があるんじゃないかと思ったくらい(笑)。

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田中さん(奥左)と米倉さん(奥右)にとって、清水さん(手前)は良き壁打ち相手。

 (岸田さん)雪が谷大塚という駅がマイナーだからなのかもしれないですね。でも都内へのアクセスはとてもいいし、街並みの雰囲気もいいですよね。

 _家具はどうやって集めたんですか?

 (田中さん)自分達で作ったものが多いです。例えばダイニングテーブルは、僕が設計担当していた物件で傷物のため処分しようとしていた材料を現場で大工さんに加工してもらい天板にして、鉄脚は「TEKO LABO」というお店で4本8000円程で購入して取り付けたんですね。入居が決まった瞬間に、家具のレイアウトのために、この家の中をすべて実測しましたね。大きなテーブルを置いて、友達を招いてみんなで座れるようにしたかった。また、二人で過ごしているときは食卓とパソコン机として使えるように、2つに分かれる構造にしています。ベンチも、収納ボックスにカバーをかけているだけで、可動できるようになっているんです。ボックスは、無印良品で働いている彼女が選んでくれました。汎用性があるものは、移動した後も使えて便利なんですよね。

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ダイニングテーブルはセパレートできる。二人で過ごす時は、PC机と食卓を分けて使用している。

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さりげない場所に、緑が。些細な楽しみのひとつ。

_カーテンなども米倉さんがセレクトなさったんですか?

 (米倉さん)はいそうです。それは、オリジナルのまとめ方です…ふさかけをつけずに、上のほうでまとめてみました。そのほかいろいろな物をセレクトしました。食器などは、もともと持っていたものを利用しながら家具や小物をセレクトしていきました。

 _この状態になるにはどれくらいかかりましたか?

(田中さん)1ヶ月半くらいですね。この取材が決まったので、馬力をかけて頑張って完成させました(笑)。

ベッドボード

自作のベッドボード。窓冊子の下すれすれの所に収まるように設計されている。

   _ベッドについて教えてください。随分大きなベッドですよね。

(田中)枕元にあるヘッドボード、実はこれも土台が収納ボックスなんですよ。ベッド自体も木材でフレームを自作して、その上に彼女が持って来たすのこをかませて、周りを収納ボックスで固定して完成させたオリジナルのベッドなんです。2つのシングルベッドをくっつけて大きなベッドになっています。どうしてもセミダブルとかクイーンサイズの一枚のマットレスに人が2人寝ると、寝ている時に相手の振動がもう一人に伝わってしまうじゃないですか。木材は近くのホームセンターで、図面通りのサイズを伝えて、切ってもらいました。そのホームセンターでは、レンタカーを借りられるので運ぶのも簡単なんです。

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寝返りの振動などが気にならない!マットレス分割というアイディアになるほど。

 (米倉さん)シングルをふたつ繋げると、キングサイズベッドとほぼ、同じくらいのサイズになります。

 (田中さん)これは、お互いが元々持っているマットレスを活用できて良いアイディアだったと思います。また、キングサイズやクイーンサイズって、搬入できない恐れもありますよね。そういう点でも、便利です。

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部屋全体が温かい雰囲気のはこの扉の存在も。三枚扉が横にスライドする。

 _扉について、3枚の茶色い扉を寄せていくと壁の中が収納になっているんですね。

(岸田さん)これも推しポイントのひとつでした。しかも、枠は木なんです。既成のものをはめていくのではなく、木枠が残っている点や、冊子やレールだけ取り替えても木の枠が活かされているところがいいなと思うんですね。いいものは部分的に補修して残すという、選択はコストの面でも有効ですね。

_なぜ、壁色は青色を選んだのですか?

(米倉さん)彼は青がいいと言って、私は緑にしたくて、その間をとってこの中間色になりました。

「Photoshop」という技術をつかって候補にあがった色のシュミレーションをして、ここに落ち着いたんです。

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実際に田中さんが作った写真の合成データ。色のシュミレーションを、実際の写真の上で行っている。

(田中さん)トイレも花柄でつるっとした質感だった壁紙の上から同じ色をアクセントカラーとして、壁一面塗っています。床材には、オフィスの模様替えで余ったタイルカーペトを使ってみました。

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トイレの壁は鮮やかで清々しいブルーで。

_クロスの上に塗るのははコツがいるんでしょうか?

 (田中さん)まず、二度塗りが基本ですね。それから「養生8割」と言うくらい、しっかりとマスキングテープで養生をする必要があります。少しでもはみ出したり、色の境目が曖昧になると美しくない。まぁ、全て職人さんの受け売りなんですけどね(笑)。

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「青色」ではない名前がついているペンキ。詩的な気分にさせてくれる。

(米倉さん)この青いペンキの色の名前は「fog bouy(霧の中に浮かんでいる海洋観測機、ブイ)」という色だそうです。なんとも言えない景色ですよね、お店の方に、青と緑の間はどんなものがありますかと尋ねたら提案してくれたのです。

_普段のお仕事がら、お客さまから色や素材の相談をお受けすることも多いんですか?

(米倉さん)色のシュミレーションや相談というのはとても多いですね。実際の業者さんを紹介することはありませんが、選択肢をお伝えすることはあります。本当は無印良品のペンキも考えたんですが納期がまにわなくて。ペンキ屋さんによってはその場で調合してくれたり、塗り試しをさせてくれたりするメーカーもあるので、迷わずに相談してみるのがいいと思います。

_ここまでやれたら、建築家でありながら施工もできちゃいますね。

(田中さん)実はそうでもないんです。設計事務所で仕事をしていると、工務店さんの仕事を目にする機会がとても多いんですね。職人さんの技術は本当に素晴らしいんですよ。天板だったら木目の柄がビシッとあっている。色塗りも、壁紙も、床材の仕上げも、綺麗だし、仕事は丁寧。僕が、設計事務所で図面を描きながら、現場のあの施工精度で仕上げるなんていうことは不可能ですね。規模にもよるとは思うんですが、建築家・設計者は総合的なマネージメント力が一番大切だと思います。一方、現場の職人の腕の良さや、仕事の綺麗さは、知っておくべきだけど自分ができるとは思えない。ただ、こういう風に自分の家で試してみると、職人さんの仕事って、こんなにやらねばならないことが沢山あるのだと改めて思いますね。今回のDIY体験によって自分の仕事へフィードバックできることは沢山あり、多くのことに気が付けました。

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今回の図面は田中さん自身が家具の配置などをシュミレーションする際に作ったものを、お借りしました。

_お二人は、どんなことからインスピレーションを感じて空間を思い描いていますか?

(田中さん)横浜に住んでいたころ、実家の近くにカフェがあったんです。地区センターで勉強をした帰りにいつもその前を通っていたカフェがあって。公園に面したおしゃれなカフェで、2階が建築事務所だったんですね。僕にとっての原風景だと思います。後は学生の時に色々な所に旅行に行ったのが大きかったですね。やはり、いろんなものを見ることが自分の引き出しになっていますね。この仕事をやっていると、建築家の知識は豊富でないといけません。加湿器やコンロなど、電化製品についても尋ねられる。お客さんは家のプロだと思ってくれているので当然と言えば当然ですよね。どんなものが良くて何が悪いのか、調べて勉強するようになる。ちなみに、コストも含めて調べていくと作った方が早いっていう結論に行き着くことも多いですけどね(笑)。

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コンセントカバーは、パナソニックのアドバンスシリーズのものを。ほかにも、木のカバーは樹の森の「木楽」という商品などを使用。

 (米倉さん)海外の雑誌や、情報取集して集めた様々なインテリアやデザインにまつわる資料からインスピレーションを感じますね。そこで描いてきたことが今回やっと形になったのです。以前は、外でお茶しようと思っていたことも、いまは、せっかく飲むならコーヒもテイクアウトして家でのんびりしょうかなと思うようになりました。心境の変化がありますね。家のなかで過ごす時間を、もっと増やしたいと思います。

(清水さん)僕はいつも、ありのままの家を使う方なのですが、やっぱりここは、空間が抜けているし気持ちいいですね。遊びにくるとリラックスできると思いますね。

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集まってきたものが、お二人の興味や好みを表していて。

 _田中さんのように、建築やデザインに知識が浅いかたでも、取り入れやすい工夫などはありますか?

(田中さん)僕達は照明を真っ先に、青白い光の蛍光色から暖かいオレンジ色の光の電球色にかえました。まずは、どういう部屋にしたいっていうイメージを持つことからなのだと思います。そして、多くの方は「家の構造」をあまり知らないので、いじっていいのかな?などと不安になると思うのですが、何かひとついじり始めてみると、どんどん興味が湧いて楽しくなってくる。まずは最初の一歩を踏み出してみることなんじゃないですかね。

(清水さん)僕の部屋はこじんまりしているけれど、天井が高いので上に向かって空間を活用する方向にいくんですね。柱をつけてものを置いたり、引っ掛けたりと、活用していく。環境を生かしていくのもひとつのポイントですよね。

(岸田さん)何かひとつやりだすと、細かいところが気になり始める。一歩を踏み出すことさえできれば、スタートしはじめるんじゃないかな、と思うんです。僕は、最初二部屋を借りた時に、最上階独占の部屋だった。窓が大きくてカウンターテーブルを作りたかったんですが、もともとの自分の荷物が多すぎて結局スペースを作りきれなかった。間取りのなかに持ってくる家具がどれくらいあるのか、想定した前提で自分のイメージを形にしていけばよかったなと思いました。

_何かポイントをひとつ、作っていくほうがそれを中心に進めていきやすいのかもしれませんね。

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米倉さんが学生時代に作った作品。このモチーフを使って壁の絵も描かれている。

 _賃貸に住むということについてお考えをお聞かせください。

(田中さん)僕はどちらかというと(持家か賃貸かでいうと)、賃貸に軽やかに住み続けていきたいですね。旅行も好きなので、さまざまなところに住んでみたいのでしょうね。震災のときは、自分がそこにずっと住み続けているということの意味を考えました。建物を所有して、その場所に住み続けるって難しいテーマですよね。けれど実感しているのは、住む場所って自分の精神基盤になるので、軽やかでも、土地に根ざす場合でも、変化を許容できる場所であると同時に安心し休まる場所にしたい、と思っています。

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古くても良い質感はきちんと残すところ。

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R-STOREの岸田光さん。情熱的なトーク、専門的な知識、そして笑顔が素敵。

部屋の内装を変える、といってもどこから手をつけていいのか検討もつかない方も多いことでしょう。今回田中さん米倉さんの部屋を訪ねてわかったことは、はじめの一歩を踏み出さないと何もはじまらない!ということです。なんでもいいから、小さなことからトライしてみることで得られる変化は、そこに新たな好奇心を産み、その先に進む勇気をくれるのだと思います。そして、工夫をするということが、手間暇を惜しまず体を動かすことだという大切なことにも気付かせてくださいました。明日から、あなたの部屋も、気になっていたところを、ちょっとだけ変えてみませんか?(文・stillwater 玉置純子 写真・松園多聞)

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